動き出した「樂園」 沖縄流グローバルDNAで挑む(上)

動き出した「樂園」 沖縄流グローバルDNAで挑む(上)

糸数剛一 株式会社リウボウホールディングス代表取締役会長

 アジアの中心に位置し、かつて交易や交流によって栄えた琉球。この島の人々は周辺諸国の海洋文化を吸収し、アレンジを加えながら商業や生活様式、文化、芸能の各分野で独特の世界観を築き上げ、辿り着いた多くの異邦人たちを魅了してきた。沖縄の中心地・那覇市久茂地の一等地に建つデパートリウボウには、古来から受け継がれてきたそんな沖縄の精神性が創業の原点に宿る。リウボウホールディングスの糸数剛一代表取締役会長(60歳)が「原点回帰」を肝に立ち上げたオリジナル・ブランド「樂園百貨店」が今、国内外のメーカーや小売事業者の注目を集めている。豊富なビジネス経験をベースに、沖縄の持つ可能性に誰よりも強い期待を抱き、挑戦する糸数氏に価値観やビジョン、リウボウグループの将来像、沖縄への思いについて聞いた。

リウボウグループを率いる糸数剛一会長

 「いかにクリエイティブな事をするか。そして独自性を持つか」――リウボウの強みとして糸数氏が挙げたのがこの点だ。米国ファミリーマート社での3年間を含め、25年間コンビニ事業に携わってきた同氏がリウボウホールディングスの代表取締役社長に就いたのは約6年半前。グループ全体での経営を任された同氏は、「コンビニから来たオヤジが何を言ってるんだ」という言葉も跳ね返し、「良い商品」、「信用力」、そして前述した「独自性」で、リウボウブランドの強化に乗り出した。 そこで必要になったのが、新しいリウボウのイメージを言語化するブランディングだ。「沖縄の、緩やかな開放感、リゾート」といったイメージをブランディングの専門家に伝えると、「そのための言葉が二つあります」と返ってきた。「日本語と、中国語の簡体語・繁体語でも同じ文字で表現できる『樂園百貨』。英語は『Resort Department』にしましょうと提案され、それはいいねということで決まったんですよ」と新しいブランドが誕生した逸話を糸数氏は教えてくれた。

県庁前の一等地に立つデパートリウボウ

■リウボウを「樂園」化

 実店舗の「樂園百貨店」と「樂園カフェ」がリウボウデパートの2階にオープンしたのは約1年前。「沖縄のいいモノ、日本のいいモノ、世界のいいモノ、からだにいいモノ」の4つをコンセプトに、「現在それに益々磨きをかけているところ」(糸数氏)だという。将来は樂園百貨店のコンセプトを、リウボウ全体のコンセプトにしたいという構想が同氏にはある。つまりリウボウの「樂園」化。まずは「樂園=リウボウ」という沖縄企業としてのブランディングを確立させたら、次は「樂園」ブランドで世界中にいいモノを販売していく計画だ。

ここでしか買えない「いいモノ」を揃える樂園百貨店

 リウボウグループは、戦後間もない1948年にスタートした琉球貿易商事が前身。その後、世界中から物を輸入する『舶来品のリウボウ』として県民や米国人を引き付けた。現在は、主軸の百貨店のほか、スーパーのリウボウストア、コンビニの沖縄ファミリーマートを傘下に持ち、沖縄の4大流通・小売り業者の中でも比較的高級な市場を取り込んでいるグループである。山形屋や沖縄三越が1999年、2014年にそれぞれ閉店した後は、沖縄で唯一残った百貨店がリウボウだ。
 糸数氏の「原点」には、自身が幼少期にリウボウを訪れ、憧れを抱いた「キラキラした百貨店」の思い出がある。「昔はみんな海外に出張して自分で買い付けしていた。文字通り本当のバイヤーだったんですよ。しかもトップが創業者の宮里辰彦さんで、米軍とも顔が利いた。軍用機に乗って海外に仕入れに行っていたそうです」。ある意味でいまよりずっとグローバルだったリウボウ。糸数氏は自分がやっていることは「原点回帰」だと気がついた。「『舶来品のリウボウ』を僕は今また育て始めて、今度は世界中のいいモノ、リウボウでしか売らない沖縄のいいモノ、当然日本のいいモノも提供していきたい」と熱っぽく語る。

■樂園化への布石、着々と

 とにかく「いいモノ」と「ここでしか買えないモノ」にこだわる糸数氏。昨年12月に日本総代理店の権利を獲得した英国の「グレート・テイスト」もそのひとつだ。黒字に白いロゴが目印のグレート・テイストは、厳格な審査を経て、優れた加工食品や農産物だけに贈られる賞を獲得したいわば高品質のお墨付き商材。現在、東京にいる営業部隊が他の百貨店や高級品流通に一斉に営業をかけており、これから日本中で売り出す予定。日本で成功したら、アジア市場開拓の可能性もあるかもしれない。
 もうひとつ、収益化を考えて新たにスタートするのが楽園ブランドの水事業。「ナチュラルミネラルウォーター」と「ハイポトニックウォーター(経口補水液)」は台湾中部の天然水を使った「沖縄×台湾」のコラボ商品で、早ければ年内にも発売を開始する。前者はリゾートホテルのアメニティ用に、後者はスポーツジムのほか、海外では台湾やタイなどアジアでも展開予定だ。
 リウボウがユニークな点は、台湾の誠品と林百貨店との協業にもみてとれる。「流通・小売りで新しいイノベーションが生まれるのは東京とは限らない」と言うほど、糸数氏の台湾への注目度は高い。「誠品はものすごく良い百貨店ですが、実はあのセンスのいい商品の7割から8割は台湾の商品なのです。独自性そのものなのですよ、誠品も林百貨店も。もうこれだ!と思いました」。求めていた独自性は両百貨店がすでに実現していた。そういったセンスの良いものを一緒に育てていく事を、以前からやりたかったという糸数氏。この業務提携でリウボウの魅力にさらに磨きがかかることが期待される。

リウボウが協業する台湾の誠品(写真は台北市にある誠品信義店)

■2つの課題

 独自性を追及しているリウボウだが、課題もある。足りない商材をどう増やしていくか。樂園百貨店は現在500品番を扱うが、売れゆきに応じてどんどん改廃もしなければならない。日本初の商材を海外から輸入する時には、プロセスにかなりの時間がかかることも判明した。「継続して売れるものは2割程度。アイテム数が少ないとどうしても売り上げを伸ばしていけないですよね」と言う糸数氏。息の長い商材探しや開発にも、焦らずじっくり取り組む考えを示している。
 もう一つの課題がマーチャンダイジング。つまり良い商材を買い付け事業化する目利きの強化だ。いまは外部のマーチャンダイザーの力も借りているが、将来はリウボウの社員に主役になってもらうため、自社の若手社員を同時進行で育てている最中である。

品揃えの充実を図っている樂園百貨店

■3年目の手ごたえ

 糸数氏は沖縄のリウボウをマーケティングの発信元とし、沖縄から日本本土、そしてアジアや世界に売るというビジネススタイルに手ごたえを感じ始めている。同氏にとってマーケットは世界軸。「まだまだなんですけれど、3年位前に樂園のブランドを立ち上げたときにイメージしていたものが、だいたい輪郭が見えてきたんですね。できそうだなという感じで。後はその商材と交渉と判断をどれくらい広げていくかということです」。スタートは小さく、手ごたえを感じたならスピードを加速しながら世界に広げるのが糸数流とも言えそうだ。リウボウの方向性を外向きにし始めてから、いい人材も自然に集まるようになったという。

■「リゾート」から「国際ビジネスリゾート」へ

 2018年末時点で入域観光客数がほぼ1,000万人に達した沖縄。来春には第二滑走路の供用も開始され、LCCのピーチ航空などは2年前に開設したバンコク路線に続き、来年以降にもベトナム線の就航を検討しているとも報道されている。観光客数の増加で外資のホテルも沖縄に注目し始めた。ハワイの高級リゾート「ハレクラニ」が7月に開業、数年後には「フォーシーズンズ」の開業も予定されている。
 糸数氏は「所得の高い層が安心して泊まれる外資系ホテルが出来ると、そういう層の客が来るようになる」とし、沖縄全体のクオリティの底上げメリットを強調する。中でも期待しているのがヨーロッパからの直行便だ。「3年後なのか10年後なのかは分からないのですが、将来ほぼ間違いなくヨーロッパからの直行便がつながりますよ。そうすると一挙に国際リゾートになりますから」という想定のもとで、その前に力をつけておく必要があると述べている。沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)による2017年度の試算によると、2030年に沖縄を訪れる観光客は1,740万人。その半分は海外からの客になる見込みで、リウボウもそのための準備を既に始めていると言ってもいいだろう。

ハレクラニ沖縄からの景色

 ある程度の外資を入れることで、沖縄のリゾートは単なる「リゾート」から「国際リゾート」にレベルアップすることができるだろう。だが糸数氏にとってはそれだけではまだ不十分。「沖縄のポイントは、国際リゾートになるだけではなくて『国際ビジネスリゾート』になることです」と語る。特にアジア向けのビジネスをする人達が、例えばアメリカからわざわざ東京に支店を持ち上海や北京の商売をしていることに疑問を呈す。環境の良さや地理的優位性はビジネスをする上での決め手ともなるため、「特に外国人は」と前置きした上で、「沖縄に来たらいかにここが便利かわかります」と述べている。
 実際、すぐ近くに海がある生活環境や、ほとんどのアジア主要都市へ2時間圏内で行けるところが沖縄の強みでもある。スタートアップ系企業はいまは中国の深センに集約するが、糸数氏は沖縄にもそういった優秀な企業や個人を魅了するような区域を作ることを提唱する。ビジネスマンや学生などクリエイティブな若者が世界中から集まってくるはず、というのが同氏の考え。ただし、実現には「行政と民間が一緒に動かないとだめなんですよね」とし、加速化するためにも行政(沖縄県庁)の理解と協力が不可欠との考えも示している。

■小学校から英語教育を

 沖縄の国際ビジネスリゾート化や、スタートアップ系向けのエリア創設案を提唱する上で必要になってくるのが、コミュニケーション手段すなわち英語教育だろう。言葉について沖縄県ではうちなーぐち(沖縄語)の推進をかなり進めているというが、糸数氏の主張はこうだ。「それはそれで全然構わないのですが、沖縄は本来はもっと英語教育をやるべき。小学校の頃から完全な英語教育をやってくださいと。それによってある世代以降はほとんどの人が喋れるようになりますよ」。 英語教育に力をいれると日本語教育のレベルが落ちるという反対派もいるが、「僕はそれは真逆だと思っているんです。違う言葉をやると日本語に敏感になるんですよね、絶対に。だからそれをバランスよく、今よりはもっと英語教育を入れるべき」という見解を述べている。沖縄での国際人の養成は、小学校から英語を当たり前に話せるようにするだけで一気に突破できるというのが糸数氏の考えだが、ここでもまた行政主導の推進力が求められている。

■発想の転換「出ないなら、呼び込もう」

 ところで、「今の沖縄に残っている第三世代はますます語学力もなく、住み心地がいいためゆでガエル状態だ」と嘆く糸数氏。常々「外に行け」「とにかく海外に出て経験を積め」とハッパをかけてきたが、このところその考えにも変化が生じている。同氏が考えたのは、彼らが出ないなら逆に海外から優秀な人材を沖縄に呼ぼうという考え。「そういう人たちと仕事をすれば、「すごい!」「楽しい!」と刺激を受ける。そうすれば必ず海外に目がいくはずで、その次にはその人の国に行ってみたい、その国で働いてみたい、その国について知りたいとなるはず」という論法で、特にビジネスシーンでの海外人材の活用を県にも提案している。

 リウボウでも、中国・台湾・韓国などのアジア人を採用しているが、今後はロシア人などへも広げていきたい考えだ。「もう逆で行きましょう。 出ろ出ろと言っても行かないので」。糸数氏がたどり着いた発想の転換。まずはリウボウが実践で効果を示すのが、行政を動かす手っ取り早い手段かもしれない。

<筆者プロフィール>
久保田久美
海外在住22年。1997年より共同通信社の子会社(株)エヌ・エヌ・エーのフィリピン版編集長を経て、香港、EU、オーストラリア、シンガポールにて同社現地法人の経営に従事。2018年に退職し、現在はバンコクを拠点にフリーランスのライター、編集者、翻訳家として活動中。