COMPASSコラム「自由自在」

「自由自在」

 「終身雇用を守っていくのが難しい局面に入ってきた」

 トヨタ自動車の豊田章男社長が5月13日、業界団体のトップとして放った言葉は印象的だった。金太郎飴のように従順を求めてきたはずのモノづくり国家、日本(型経営)を代表する経営者からの告白である。

 暗記型教育を柱にした学歴競争によって社会のヒエラルキーが形作られ、学歴はそのまま人物、時に人格までの評価基準となった。業績が悪くても簡単には解雇できない雇用制度がバブル崩壊後の失われた20年においては、大いなる足かせとして日本社会の変化対応を妨げてきた。学閥、世襲などを中心に厳しい序列をつくるムラ社会では、中央集権という山を登るように先行く先輩や上司の面子を担保する、いわゆる忖度的判断や指示に従う。個性などと異論を唱えるものは時に”適応障害“として窓際へと排除され、その創造力が奪われてきた。世間体を優先した無言の同調圧は、自由な表現や本質を捉えた価値観の芽を摘み、転職という効率的な学習、成長機会すら失わせた。従順に組織に埋もれる生き方を強いられた人々でつくられる日本社会の限界は火を見るより明らかだ。終身雇用への疑念を語った豊田社長の発言は、そんな日本に根付いた社会システムそのものの寿命を示唆した。時代の主役が「組織」から「個」へと移行する、LIFE SHIFTを宣言したといっても過言ではない。

 「勉強しすぎると馬鹿になる」「正直者が馬鹿を見る」という表現はときに、こうした暗記一辺倒の教育と、秩序や規律を重んじ単一という変化を好まない日本社会を皮肉るように使われてきた。人生も既に折り返し地点を過ぎた大人になると、実体験に伴ってその言葉の意味するところがよく理解できる。しかし、テクノロジーの進化によって距離や時間の制約から解き放たれた経済社会においてこの表現は、間もなく賞味期限を迎える。

 「超高速」「大容量」「低遅延」「多接続」「高信頼」の特長を持つ「5G」が新しいビジネス領域を切り開いていく時代に突入した。米国の巨大テクノロジー企業群GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)は、個人情報の扱いで批判を浴びるものの、世界のあらゆる局面で影響力を増している実態に変わりはない。開かれた感性の扉から溢れる好奇心を源泉に、個々人がスマートフォンを駆使し、先端ツールを最大限に、効果的かつ圧倒的に学習する者が時代の主役の座に躍り出る。われわれは今、国や地域、社会のあらゆる“族”を越えた抜本的な社会構造の転換点にいる。勉強しすぎて、しすぎる事がない時代の到来である。

 一方で、テクノロジーの進化に秩序を与えるべき政治家の“学習”が追いつかない。社会システムは中央集権から分散型へと急速に移行しているにもかかわらず、運用面では既存の利権にぶら下がり、利益をかすめ取る口利きやピンハネが横行し、革新の実用化と浸透を阻む。その点、「正直者が馬鹿をみる」現実は予断を許さない。

 しかし、「アラブの春」で独裁政権下の民衆にSNSが言論の自由を与え、スマホによる個人信用のスコア化によって農村民を貧困から脱却させたように、テクノロジーは社会課題にまっとうに向き合い解決を模索する。よりよい暮らしを求める個々人が技術の革新を担保に自己の革新に挑戦し続けるその裏側で、いまだムラ社会に暮らし、テクノロジーの活用に関心を持たない職業政治家諸氏の機能不全は、留まることを知らず、末期症状のように失言、失態を繰り返している。

 ファーウェイを起因とする米中貿易摩擦をはじめ、世界の経済市場を席巻するGAFAを封じ込めようとする各国政府の動きはどれも、ある種、市場原理を無視した矛盾帯びた消極的回避策の連続でしかない。まるで自らの統治能力のなさ、制度疲労を暴かれることを恐れているかのようにも見えてくる。生存本能の強い政治家諸氏の嗅覚は既に、盗撮、盗聴といったテクノロジーの悪用により自身の内心が丸裸にされていることを薄々と察知しているに違いない。

 政治は即生活である。その舞台となる社会は、平和や安定、豊かさを求める“一人称”の営みによって創られる。京セラ創業者の稲盛和夫氏が「動機善なりや 私心なかりしか」と自問自答したように、政治家諸氏には、無私を欲し、裸一貫で立ちあがった初心の原点に立ち返ることを期待したい。利権や特権を守ることばかりに腐心し、生活者の暮らしの足元、現実を疎かにしては、税金泥棒との歴史の評価は逃れない。それはいずれ自らの血脈の汚点となり後世の足かせとなり、末代より後ろ指さされる事、必至である。

 衆参同時選挙が呟かれる今、立志の原点に立ち返り、国の軌道を持続的成長へと戻す為の”あるべき分配論”その熟議の時である。正直な市民の声なき声を傾聴し、国家百年の計で思慮深く、引き続き正直者が馬鹿をみない社会改革に全力で邁進すべき時である。その上で今、改めて「義を見て為さざるは勇なきなり」と自らを鼓舞し立ち上がるなら、きっとその至誠は天に通ずるのではないだろうか? 誰がみていなくともきっとお天道さんは見ていてくれているのだから。政治家の評価は歴史以外にないのだから。

参考ニュース

2019/5/15 テレ朝news  「終身雇用守るの難しい」トヨタ社長が“限界”発言
https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000154403.html

2019/6/4 TBS NEWS 孫会長に聞く、“AI時代”に天才は・・・http://news.tbs.co.jp/sp/newseye/tbs_newseye3691179.htm