COMPASSコラム 沖縄経済をテクノロジーで革新したら - 持続可能な「分配システム」がつくる OKINAWA・未来予想図

平良尚也

株式会社Polestar Okinawa Gateway顧問

プロローグ

テクノロジーの進化が世界を動かし、次々と生まれる新しい技術が古いシステムの革新を促している。既存の硬直しがちな社会システムに、テクノロジーを生かした施策の実践がすでにいくつかの「解」を導き出している。

テクノロジーは人を公平にする。個々人に培われた経験や知恵、技術を分かち合い、だれかの重荷や不便、不公平、不平等を解消する別の仕組みを生み出すエンジンにもなり得る。

日本でも年功序列、終身雇用の終焉が見え、可処分所得、可処分時間の減少、社会保障の縮小などによって人々の人生設計、暮らしのあり方が変わることは明白だ。

我々のすぐそばの、子や孫が生きる未来を方向付けるのは、現行システムのルールをつくり、運用を担う国家や行政、企業などあらゆる組織のトップ、マネジメント層の品格ある行動にかかっている。いま我々が生きる環境や資源はあくまでも子孫からの拝借物なのだから。

テクノロジーの進化と応用に自らアンテナを張りめぐらせることに「門外漢」は通用しない。テクノロジーは若者に、と委ねたり押しつけたりせず、大人が学び、その先を考えること。親の今にお金や経験、知識や時間があるなしに関わらず、子には平等に学びと挑戦の機会を届けること。この視点と実践を通らなければ、次の未来は描けない。テクノロジーの進化は社会のこうした期待の実現を助け、暮らしの改善に大いに貢献する

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横たわる根源的な課題

社会に出て30年。故郷沖縄のため、その後輩たちの明るい未来をつくるために、という信念に基づいて自らの職業選択とキャリアを意識的に積み上げてきた。世界各地の状況から「総体」と「相対」を視野に入れながら、将棋を詰めるように沖縄に必要不可欠で、充足すべきパーツや素養とは何かを絶えず真剣に考え、体得してきたという自負がある。

各地の人々の暮らしや経済状況、そこから得られる生の情報とつきあわせるほどに、沖縄の人、文化、地理、歴史がもつ魅力と可能性、発展性に確信を強めるばかりだ。

だが、足元の現実をみると、テクノロジーの時代をもってしても、島嶼地域という不利性、既存システムの膠着性を乗り越えるまでには至っていない。低所得、こどもの貧困、教育の格差という根源的な課題はいまだ尚、沖縄の特性として現実に横たわったままだ。

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転換のチャンスはそこに

 「テクノロジーの進化」とは、通信と移動が距離を越えることをいう。情報通信の発達と、LCCの台頭による移動コストの低減によって、地球の裏側にいる人と”あたかも”その場にいるかのように対話し、まるでバスや電車を使うように気軽にエアに飛び乗り、国境を軽々と越えられるようになった。島嶼地域の沖縄にとってこれまでの不利性を優位なものへと転換できるチャンスであることはいうまでもない。

通信によって距離を克服したとき、人々はそこにいながらにして多様性と出会い、情報格差の溝を埋めることができる。同時に、沖縄本島と離島、離島と(成長著しい直行便4時間圏内の)アジアとの近接性でみれば、国境、時空を越えた地域間や広域連携によって、沖縄の立ち位置が圧倒的な地理的優位性へと導かれ、その視界を明るく広げてくれるものである。

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アジア・アフリカの成長、革新生む側へ 

沖縄は今年、本土復帰48年を迎える。本土の戦後復興の開始から27年間のブランクを経て進められた社会基盤の整備は、ほぼその「遅れ」を取り戻した。不利性克服の鍵となる情報通信(IT)産業においては国や県の予算が重点投下され、観光産業と並ぶリーディング産業の一つへと、一定の存在感を示してきた。

2000年に沖縄で初開催されたG8サミットでは、21世紀における情報社会のあるべき姿として「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」(IT憲章)が採択され、沖縄がアジア・太平洋におけるIT振興の象徴の地に位置づけられたことは記憶に新しい。

だが、あれからすでに20年が経過した。

沖縄サミット当時は、スマートフォンや高速大容量の無線通信が世界にこれほどまでに浸透するという想定はなかっただろう。IT憲章にうたわれた内容が国や県の施策の指針として機能してきたのか、通信環境の変化に応じた施策の見直しに生かされてきたのか、未だ十分な検証はなされていない。

同じ20年を過ごす中でも、世界に目を向けると、中国を筆頭に、ベトナムやエストニア、アフリカ諸国など、沖縄や日本と同様に戦争や紛争を経験した小国から大国までもがテクノロジーの進化を絡め取りながら、革新と成長を繰り返している。戦後75年、復帰後48年掛けて積み上げてきた沖縄の発展の歩みを凌駕するスケールとスピードで足元の暮らしを向上させ、技術革新を享受する側から、生み出す側へと立場の逆転をかなえつつある。

こうした俯瞰で眺めると、改めて問いが浮かぶ。IT産業の活性化による価値創造をうたいながら、沖縄県民は、テクノロジーの進化を最大限に生かした「真の経済成長」を享受してきただろうか。日本の政治、教育、社会システム全体にも通底する問いでもある。

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テクノロジー生かす具体策とは

不利性を克服する先に、我々は沖縄の社会や経済について、具体的にどのような変化をイメージすればいいのだろうか。

テクノロジーの進化の時代において、アジアの中の沖縄の潜在力は計り知れない程に奥深い。今後、5G通信の基盤整備に伴い、距離を超えた質の高い医療・教育の相互供給によって、それら地域に暮らす人々の生活の質を向上できる可能性を含んでいる。さらに、テクノロジーの進化を採り入れたスマートなPORT(空港・港湾)政策との連動においては、新たな経済機能としての活力は絶大なものになるだろうと期待できる。

一方、潜在的に起こりうるリスクも当然ある。デバイスはモバイル化、小型化し、運用面では「集中」から「分散」へ、情報の交差点を政府や企業から個人へとシフトさせている。その変遷においては、中東・北アフリカ地域で本格化した民主化運動「アラブの春」や、今年勃発した香港でのデモ同様に、時に制御不能な混乱や暴徒を生む恐れもある。

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利益の「分配」軸に

テクノロジーが進化する時代の備えとはなにか。それは、「持続的成長」を担保する理念や設計思想、それを動かす公平且つ適切な分配システムの構築である。

テクノロジーを創造し、社会システムとして還元する技術者と、その恩恵を受ける人々の関係性に、搾取構造的なヒエラルキーを当てはめてはならない。

テクノロジーは可処分時間と可処分所得を増やすことに貢献し、働くことの満足度と、暮らし(ライフ)の幸福度のバランスを最適にできる社会資本の一つである。その構築の過程では、制度疲労に陥りがちなイデオロギーにとらわれた議論から距離を置くことに留意したい。個々人がテクノロジーの進化の受益者となる時代において、そのガバナンスを主導する政治や行政の在り方が問われている。

(株)Polestar Okinawa Gateway 顧問 平良 尚也
(株)Polestar Okinawa Gateway 顧問 平良 尚也