COMPASSコラム 「時空」めぐる中国覇権(上)

「時空」めぐる中国覇権(上)

 香港で中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対する住民の大規模デモの様子を伝えるニュースが世界を駆けめぐっている。中国や香港政府の強権的な姿勢に国際社会が厳しい目を向ける中、宗主国として1997年まで150年間香港を統治した、いわば関係国ともいえるイギリスの対応は、関心はあるものの、干渉には消極的な立場に追いやられている様にも見受けられる。例えそれが結果的に中国を支援することになったとしても、EU離脱問題に揺れる最中ではどうしようもない、やむを得ないといった嘆きのようにも聞こえる。

 一方、背後で中国が世界の”新たな秩序”の覇権を手中に収めようとしている全体像をはっきりと感じるのは僕だけではないに違いない。中国は、戦略的かつ粛々と進めてきた「一帯一路」構想に基づく支援で開発途上国への実質的な浸透を図りつつ、詰め将棋さながらに次世代通信規格「5G」の実用化の波を引き起こしている。デジタル領域の主導権争いで大いなるアドバンテージを築き、中国の駒は飛躍的に王手へと近づいた。この間、中国が仕掛けてきた南シナや東シナのリアルな領海問題は、皆の関心を一旦そこに集めて置くためのダミーではなかったか?すべてが演出だったのではないかとの疑念に、ハッとさせられる。いよいよ時空もそのスペース(空間)が、政争の具と化す時代を迎える。

(株)Polestar Okinawa Gateway
顧問 平良 尚也

香港政府の「逃亡犯条例」改正案に抗議するデモに100万人もの市民が参加し、道路を埋め尽くした。

 ■イギリス支援のわけ 

 中国が推し進める大経済圏構想「一帯一路」では、約10兆円を投じアジア、欧州、アフリカの各地で港湾、鉄道、道路、工業団地などを建設。経済圏構築の柱となる物流網・中国貨物鉄道は世界最大級の日用品取引の中心地である中国東部の浙江省義烏市からカザフスタン、ロシアを経由し、ドイツ、イギリス、ポーランドへと接続している。

 一方で、開発費用として各国政府に負わせた多額の債務と引き換えに、中国政府がそれらインフラの使用権を担保にとっていく事例が相次ぐ。文字通り”金にものをいわせ”、他国の領域にリアルな支配の網を次々と覆いかぶせていく。他の先進諸国が成し得なかった、開発というハード面での具体的支援と、その支援なしには豊かさや便利さを手に入れることができなかったこれからの地域の利害が一致することで、双方の関係性はより強固なものになっている。
 香港での大規模デモをめぐって、イギリス政府が中国政府に対し消極姿勢に終始する理由もどうも ”マネー”、にある様だ。EUからの離脱を選択したイギリスからはすでに、金融・ビジネスの代替地を求める人や企業の流出が始まっているという。その動きを横目に、イギリスに向け積極投資を仕掛けているのが中国だ。開発資金や事業、株への投資だけでなく、流れ出る人材の受け皿とてしてもいよいよその本領を発揮してくるに違いない。目的はなにか。イギリスの背後には、旧植民地諸国53カ国が加盟する英連邦がある。実質的な支配こそないが、加盟国は緩やかな連携関係にあり、その中にはアフリカやインド、マレーシア、シンガポールなどが含まれる。海外領土には、タックスヘイブンで知られるケイマン諸島などもある。イギリスの国力が衰えているとはいえ、広範囲に及ぶ経済圏は決して無視できない。それどころか、獲得すべき明確な目標にすらなるだろう。

イギリスの企業などに中国からの投資が相次ぐ。 

英国のEU離脱で再び独立問題に揺れるスコットランド

■見えざる手の導き

 

 その意味で、一帯一路のリアルの浸潤と平行して、ファーウェイが展開する5Gの陣取り合戦は単なる基地局設置に向けた商業ベースのオセロゲームではない。このゲームの勝者は、超高速通信網が新たに創り出す、「4次元空間=時空」を制する。中国はその競争においてほぼ世界の端と端を核心的に抑えたに違いない。それに加え、移民排除やEU離脱に強行姿勢を崩さない米・英国から、新天地を求め動き出した才能あふれる憂国の獅子に、中国の爆買いの手が伸びる。5G通信網と技術者の両方を手に入れる中国がリアルの領土覇権をはるかに上回る、大帝国を築く可能性がある。

 中国のこうした動きは、突如出てきたものではない。みんなで渡れば怖くないという想像力の欠如が、中国というトロイの木馬に潜む”アキレス”に、意図的な侵入を許した。ひた隠しにしてきた水面下の戦略の概観が浮かび上がったとき、勝負はついたのも同然。ファーウェイをめぐって米国が必死の貿易戦争を仕掛ける動きに、中国は逆に勝利の確信を強めているに違いない。

 一連の展開は欧米諸国で第二次大戦以来、70年越しに極右化するポピュリズムの台頭を許している現状とも関連する。保守的な民があたかも自らの手で選択したかのような「BREXIT」が、意図的に投げ込まれたフェイクによって導かれた結果である可能性はぬぐえない。2016年の米大統領選でロシアがSNSやサイバー攻撃によってトランプ氏の就任に貢献した疑惑と同じように、秩序なき「時空」が現実の一部を支配した不幸の例であるといえる。
 今は時間と時空が並走、時に交差する様に人々の頭の中を自由自在に出入りする。それが故の混沌、混乱の中にある。扇動されやすい国民が大勢を占めるようになれば、パターン認識を得意とするビッグデータの活用によって、我々の内心はますます、見えざる手に寄って、たやすくコントロールされるようになるだろう。

 

■未来の芽摘む「罪」

 

 5GやVRの仮想現実の登場によって、時間でその高速性や生産性を測る移動や労働力も、絶対不動の地位を失いかけ始めている。なりすましの錯覚を生むほど 、”あたかも”そこにあるかのようなリアルタイムの近接感が、新たな働き方の定義と秩序を求め始めている。

 従来型の日本型経営は、可処分時間を切り売りし、その対価として報酬や評価を与えてきた。その枠にはめられた(おさまってきた)人々は、感性に蓋をされ、創造力すら奪われた。その弊害は明白なのにもかかわらず、今や惰性の回転としか思えない、日本型経営にあぐらをかく経営者やリーダーは少なくない。
 テクノロジーの進化に関心持たない音痴、食わず嫌いのリーダーに至っては、未来の芽を摘む”罪”であると強調したい。変化対応の努力を怠り、歴代経営の後継ぎ途絶えれば、未来の歴史家によって悪評を刻まれかねない。無自覚なリーダーの横で盲目的に従事する惰性の徒もしかり。その場にとどまり、しがみつく人々には、ゲーテの”勇気”を持ち出すまでもなくただただ問いたい、そこに“義”はあるのか?と。

個人や企業の自由な働き方を提案するコワーキングスペースwework LONDON

 さらに、「どこでもドア」が開く5G通信環境下では、同質のものをコピーする「なりすまし」の横行が避けられない。本物そっくりの声や話し方を再現するAIが、誤った情報を拡散させ人権・差別問題を引き起こすかもしれない。実際の戦場で展開されるドローンによる空爆や攻撃が、実はテレビ画面に向かってゲームを楽しむ子どもの手元から操作されるという事態も想定される。単なる仮定の話ではない。秩序なき大人たちの代理戦争に巻き込まれかねない、子どもたちの未来に関わる現実問題である。
 一国に覇権を奪われる可能性のある新たな「時空」というスペースから、どのようなリスクが生まれ、どのような秩序や教育を施せばいいのか。テクノロジーへの理解を踏まえた為政者、リーダーの誕生が不可欠となる。それ以上に、絶え間なく変化する社会の動きに関心を持ち続ける、本質に迫る、一人一人の市民の変化対応力と知的腕力は絶対である。

(株)Polestar Okinawa Gateway
顧問 平良 尚也