COMPASSコラム 「時空」めぐる中国覇権(下)

「時空」めぐる中国覇権(下)

 米Facebookが発表した仮想通貨「Libra(リブラ)」に世界各国の政府や金融機関が警戒感をあらわにしている。USドルなど法定通貨に価値が裏付けされた安定通貨であるという点で、投機的な要素の強かった従来の仮想通貨とは一線を画す。Facebookは世界に27億人の利用者を抱える巨大市場を有し、賛同者にVisaやMasterなど老舗金融からウーバー、イーベイなど新興企業まで30以上の企業群を束ねた。用意周到の根回しと公表のタイミングに、同社CEO・ザッカーバーグ氏の手腕をみた。シリコンバレーにおけるfintechの先駆者であり、国際的クレジットカードブランド「VISA」を創設したディー・ホック氏(http://split.to/Hk2MkVN)に重ね合わせると同時に、自由主義の先導者として強い使命感をも感じさせる。単にFBという言論の自由の拡声器を世界にばら撒くに留まらず、混沌をまねいた「アラブの春」に学び、彼なりの正義感から「通貨」という“秩序”の後付けに奔走している様にもみえる。

(株)Polestar Okinawa Gateway
顧問 平良 尚也

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既存システムの破壊

 リブラという通貨の秩序の誕生は、ややもすると、預金をはじめ為替の売買や資金調達・送金・決済といった既存の金融システムの構造、中央集権的な与信システムの破壊をももたらす。それは、先進国と途上国との間にあった情報格差(デジタルデバイド)や民主主義、国境や国籍、主権についての定義を問い直し、ひいては“種や族”についての考え方についても強く見直し求めてくるものになるに違いない。その影響は、特に経済語として英語を話す人々が歴史的に追い求めてきた「言論の自由」、中国語圏における「マネーの自由」といった、根源的な“フリーダム”(検閲や課税)のあり方にも波及する。つまり、長い年月を掛けて世界が築いてきた社会システムの脅威である。リブラ構想を受けて連日のように報道される現プレーヤー、いわゆる既得権益者たちの危機感たるや。リブラの危険性のみを殊更に発信し、その可能性の矮小化に躍起になっているようにも映るが、所詮時間稼ぎでしかないように映る。

経済誌などで連日、リブラ導入の課題や展望などが報道されている

VISA創設者、ディー・ホック氏の著書

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「ひとつの中国」と通貨の未来

  テクノロジーの進化が加速する現状において、この流れはきっともう誰にも止められない。とりわけ僕のVISAにおける1990年のアジア太平洋のデータセンターの立ち上げから2007年までの通算16年に渡る勤務経験や、その間一瞬の政治経験に照らしてもそう感じる。

 中国の代表的カードブランドが、未だ尚、VISAやMaster、JCBといった国際ブランドと同格の資格得ず、世界最大の国内ブランドとしてその独自のポリシーに基づく商圏拡大に猛進し続ける姿から、「通貨の未来」がおぼろげに見える。その予兆は2008年のオリンピック北京開催に向けて奔走するVISA担当者の友人(客家)が漏らした、当時の嘆きに照らし合わせてもそうだったと確信する。「中国が取るどんなアクションにも、一貫して揺るぎない『ひとつの中国』という壮大な思想が根底にある」と。
「通貨の未来」とは、米ドルによる“パクス・アメリカーナ”か、人民元による“パクス・チャイナ”か、といった野心で色づけされた単なるリアルな2色ではない。その分断の2点を股にかけ、そのどちらでもなく背後で幻想的かつ立体的にそびえるのが、ザッカーバーグ氏がデジタルでリベラルに色付けしようとする時空通貨「リブラ」なのかもしれない。
 だが、米企業を中心としたリブラ構想に先行して、仮想通貨取引の基盤整備に先駆的かつ大規模に取り組んできた中国の夢が潜んでいることを忘れてはならない。2013~2017年まで中国は仮想通貨取引の9割を占め、世界一の地位にあったといわれる。 当時、仮想通貨の世界銀行なるものがあったとすれば、中国はその9割の株を所有する大株主だったことになる。そのままいけば仮想通貨のルールメーカーとして、今ごろ中国が大きな議決権を握っていたかもしれない。
 当時の急進的なビットコインの拡大は、銀行経由の外貨両替や外為が制限される中国で、仮想通貨市場が資金の出口として使用されるという特有の事情があった。人民元の仮想通貨への衣替えによる海外流出を恐れるあまり、中国政府はビットコインの取引所を閉鎖に追い込んだが、その後も中国の奥地では安価な自然エネルギーを電力源に大量のマシーンによって膨大な量のコインを生成する「マイニング」が黙認され、莫大な利益を得ていた者もあるとされる。
 現在は、大量の電力消費に伴う汚染や資産流出への危機感などを背景に、中国政府は事実上、マイニング事業の廃止に動いていると聞くが、「そんなはずはない」との懐疑的な見方も少なくない。実際、「中国の最大手検索エンジンであるバイドゥ(百度)上で、ビットコインの検索数が増加したタイミングと仮想通貨市場のパフォーマンスに符号する点があった」とするエコノミスト兼トレーダーのアレックス・クルーガー氏の様な指摘※もある。

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時空分ける戦い

 なぜ中国はいま国際的なデジタル通貨の実行でFacebookに先手を許すのか。仮想通貨取引量の多さだけではなく、従来型の金融システムによらない、モバイル(*個人)ベースの与信システム「芝麻(ジーマ)信用」を先に普及させた中国にこそ、抜きんでた素地があったはずだ。

一帯一路構想で、AIIB(アジアインフラ投資銀行)とのタッグでMade in Chinaを世界に届ける陸・海の物流網と関所を開発し、BANKという秩序とは縁遠い、銀行に口座を持たない人々が多くいる国や地域を戦略的に取り込んできた点からも矛盾はない。さらには、5Gの基地局を圧倒的に有するIT企業ファーウェイの成長。そして極め付けは、その“時空”領域を舞台に、最大の利用者になるであろう(中国語を話す)華僑の存在がある。
中国が第一フェーズで仮想通貨市場を獲り逃がしたのは、人民元の法定通貨への格上げに費やした時間や、超高速5G通信網の実用化のタイミングにおいて、混沌とする現実世界との思惑にずれが生じただけにすぎない。Facebookのリブラと平行して、人民元に裏打ちされた“中国産仮想通貨”がもう一つの覇権を握る可能性は十分に残されている。
最後の陣取り合戦の舞台となるのは恐らく、英語圏かつ一帯一路の最終目的市場でもある、アフリカ、中でも南アフリカではないだろうか。時空を分ける戦いは既に始まっている。

 通貨や通信の覇権を通して「パクス・チャイナ」の野心が手ぐすね引いて待ち、次にしかけてくるのは“日米同盟の揺らぎ”であるに違いない。その大いなる鍵の一つが尖閣であり、辺野古である。
外国勢における米国債の保有額が最も多いのは中国、次いで日本。その保有額調整は米中貿易戦争においても有効な武器として力を発揮している。中国には、米国の安保の傘から日本が外されるときを想定した内なる思惑があるまいか。日本が保有する米ドルを手放す誘惑に駆られ、代わりに安全保障上の理由から中国元の保有を強いられる-、というシナリオだ。
 香港や台湾がそうであったように、土地の取得や事業投資、企業買収など海外から注がれる巨額のマネーが沖縄をも潤していく。そのマネー内心は、日本が中国に依存せざるを得ない環境を整えるためのそそのかしである可能性も否定できない。合わせて日本政府が推し進める憲法9条改正の動きすら、ひょっとすると抑止対象を逆に利することにはならないか?と勘繰るのも、テクノロジーが進化する時代に備えるべき政治家のセンスともいえるのかもしれない。
事はそう簡単ではないのも最もだが、リブラに対峙する中国産仮想通貨がデジタル通貨市場を席巻する日はそう遠くはないだろう。

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非軍事のフリーダム

 先にも言及した中央集権的にコントロールされる既存の通信や通貨のシステムの分散化によってもたらされるであろう、根源的な”フリーダム”(検閲や課税)の変化。沖縄におけるそれの切なるは「渡航の自由(平和)」である。「武器をもたない平和な人々」と記された悠久の時代を体現する、軍事によらない万国津梁、交流の真のキーストーン(要石)であり、安全なる航行の自由を保障するゲートウェイ(関所)としての役割、それを取り戻すことが沖縄における平和というフリーダムである。新たな通貨秩序の誕生によって国や地域の主権や統治のあり方が変化するとき、「沖縄の自治」もまた、独自通貨という秩序をもって制御していくこと求められる日がくるだろうとの示唆を生む。
 それはリブラ同様、日銀券という“ピース(平和)”に裏打ちされた「(仮)琉球コイン」の誕生を待望する「時代の要請」となるかもしれない。

王国時代、琉球は日本や中国、朝鮮、東南アジアへ貿易船を走らせ、中継貿易地として栄えた。

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令和元年の初盆に先祖と、共に考える

 さて、このような時代の風景の中で我が沖縄が取るべきアクションとは、なんだろうか。言わずもがな「最もやさしい民族」と司馬遼太郎にいわしめたウチナンチュなら誰でも分かる。それは1458年に尚泰久(しょうたいきゅう)王の命で鋳造され、首里城正殿にかけられたと伝えられる、平和のシンボル“万国津梁の鐘”をただただ粛々、淡々とこれまでの日常と変わらずピースのしらべと共に鳴らし続けるのである。
 先の戦争で犠牲となり平和の礎に眠る過去に、来る旧盆で「拝みが足りない」と叱られないように、またその犠牲の上に生を受ける未来に「ひじゅるー(心がない)」と揶揄され、後ろ指さされないように。今、世界の至るところに溢れる航行不自由な人々に届けと平和の鐘を鳴らし続けるのである。それが我々の宿命であり、運命であり、定めと受け入れて。それが過去と未来を繋ぐ今を帆走する我々、沖縄人(ウミンチュ)の使命と自覚して。令和元年の初盆に先祖と共に考えたい。

■参考サイト

※中国でビットコインの検索数急増 5月の市場に影響か【フィスコ・ビットコインニュース】https://s.kabutan.jp/news/n201906040766/

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