COMPASSコラム  中国化する世界、 “アジアの中の沖縄”が解く日本の未来

中国化する世界、“アジアの中の沖縄”が解く日本の未来

 蛍光灯に照らされた真っ直ぐに続く通路の両脇に、整然と陳列された雑貨の数々。建物の一角を歩くだけで、世界最大といわれるその巨大施設の物量に圧倒される。ここは、中国浙江省杭州市から新幹線と車で1時間ほどの距離にある義鳥(イーウー)国際商小商品城(通称:福田市場)。多国籍の手工芸品から、アクセサリー、玩具、家電製品、化粧品、衣料品、文房具などあらゆる日用雑貨を扱う卸売市場だ。日本の100円ショップの故郷といわれるが、当然、商品の行き先は日本に留まらない。義鳥は、中国が世界に浸透を図る独自経済圏「一帯一路」というオセロゲームの起点の街でもある。

6万軒以上の店舗が入る中国東部最大の物流基地「福田市場」

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世界の「入り口」

 “Made in China”を乗せた貨物列車は始発の義鳥西駅からユーラシア大陸を西へ縦横に走り、わずか2週間ほどで、終着地となるショパンの故郷、ポーランド・ワルシャワに到達する。上海、杭州、深センなど中国の都市名を挙げれば、今どきよっぽどの無知でない限り、そこが”遅れ、劣る”地域だとの時代錯誤な偏見を抱く日本人はさすがにもういないだろう。しかし、義鳥となるとどうだろうか。

ポーランドにつながる「一帯一路」の玄関口、義鳥西駅

 那覇から義鳥までは、杭州への2時間の直行便とバス、新幹線の乗り継ぎ移動を含め、およそ4時間の旅路。杭州までは東京⇒那覇間と変わらない移動時間ということからすれば近い。実際この地に立てば、距離の近さはもとより、市場規模や奥行きは言うまでもなく、超高齢少子化でシュリンクする日本本土の市場とは比較にならない程の潜在力と貪欲たるパワー、そして「一帯一路」のスケールを実感する。だがおそらく、一般的な日本人や、同じ物流ハブ構築に活路を求める沖縄人でさえ、義鳥についてはまだ「聞いたことがない」「知らない」というのが大半ではないだろうか。

 かく言う僕も2017年10月14日放送のNHKスペシャル 「巨龍中国  一帯一路 ~“西へ”14億人の奔流~」 を見るまでは地名さえ知らず、当たり前にそれが中国のどのエリアに存在しているのかなど皆目見当もついていなかった、というのが正直な所である。しかし知ったからにはと、直後の2017年12月に早速訪れたのが、一帯一路のオセロのもう一つの端、ワルシャワにある卸売市場「GD中国商城」(http://www.gdpoland.pl/en/jak-dojechac)だった。そこは、規模は違えど正に義鳥のクローンのような施設で、東欧各地から陸路で札束抱えて訪れる眼光鋭い人々であふれかえっていた。バルト海を挟んでお隣のスウェーデンはキャッシュレス先進国。移民になりすまし紛れ込むテロを炙りだすのに効果覿面で、治安の観点からも普及はポーランドにも波及。それだけに、GD中国商城で目の当たりにした現金商売には意表を突かれる。中華系の店主と交渉するそれらの人々に負けじと大男の僕も、と一瞬気合を入れてスマホを手にするが、さすがにここでは写メを撮ることすら、臆するを越えて怯む。たくましきは、マネーの力を知り尽くした華僑のみである。

2017年12月に訪れた「一帯一路」の終着点の一つ、ポーランドワルシャワにある「GD中国商城」

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空しさの正体

  あれから1年と8ヶ月、一帯一路とは何か?それは沖縄のためになるのか?の解を求め、世界中をくまなく走りこんだ。そしてようやく今回、その本丸で鍵となる起点の一つ義鳥を訪ねた。いよいよという期待で胸高鳴る。しかし、到着早々に意外にも内心に広がるは、なんともいえない空しさだった。

 この虚無感はどこからくるものだろうか。渡り歩いてきた世界各地の街の風景が走馬灯のように記憶を駆けめぐる。「你好(ニーハオ)、謝謝(シェシェ)、再見(サイチェン)」の声掛けであふれるヤンゴンやザンジバル…目下、中国の影響下にはあっても支配の歴史のない彼の地において、本来市民権なき中国語が我が物顔で闊歩はじめ、漢字が蔓延する街の風景が脳裏に蘇る。我々の日常は、義鳥を起点に運び、送り込まれるMade in China とFrom Chinaによって既に席巻されつつあることを今更ながら突きつけられた気がした。義鳥は、義鳥だけにあらずである。

100均で見かけるような均質な商品が延々と連なる義鳥の卸売場内

  つい最近まで安かろう悪かろうと揶揄してきたCHINAとその代表格である100円ショップのふるさと義鳥が、わざわざ訪れなくとも我々の日常の足元に既にあふれているという現実。いつか感じたある種の嫌悪や居心地の悪さも、時が経つにつれ、随分とその感覚は薄れ、同化し、日常として受け入れられている現状がある。

 中国から日本を訪れる観光客は今や830万人を超え、訪日外国客の約27%を占めてトップの割合になった。中国への同化の道のりと歩調を合わせるように自らも誘客の担い手となり、ついには訪問を待ちわびるほどに依存する、逆転の当事者となる人々の姿がある。苦笑にも見える愛想笑いを振りまき、バツの悪さを覚えながらも慣れへの転換を自覚せざるを得ない。貧すれば鈍するとはこういうことなのか。「日本製」を欲する中国からの客人を、時に日本にあふれた義鳥のクローンによってだまし討ちするという、日本人としてあるまじき商いが横行し始めてはいまいか、との疑念が残念な思いに拍車をかける。

 

 一方で、米国なしでは生きられない日本を横目に、堂々とその米国とがっぷり四つに貿易戦争という相撲とる中国の内なる野心を感ぜずにはいられない。日用品による暮らしへの障壁越えと浸透をみるにつれ、またここでも、”トロイの木馬”に潜み、笑いこらえるアキレスが垣間見える。こうなると中国からのインバウンド客が、帰国の途で担ぎ込む預け入れる荷物の何%が真のMade in Japanなのかが気になる。その意味で武力に拠らない侵入によって“中国化する日本”は、確実に進行中だといえる。

 

  蛇口を締めるか弛めるか、マネーのコントローラーは中国の手の中にある。中国は来年1月の台湾総統選をにらみ、8月1日、中国大陸から台湾への個人旅行を停止した。中国が強要する「一つの中国」を拒否する蔡英文総統の再選を阻むねらいがあるとみられている。表向きの政治的な意図を表明せずとも、自在にその影響力を存分に発揮する。今のところ世界ではほぼ中国のみが、国民を意のままに動かしその威力を見せつけることができる。 

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注視される沖縄

 香港、台湾、そしてその次はどこだろうか。2020年の東京オリンピックに向け、観光客だけでなく、資材や物品、不動産や事業への投資など国内市場に流入するMade in Chinaはピークに達することが予想される。米中の対立のあおりをうけてか、あるいは直接的にか、日本への締め付けの決断も実行も中国政府にとってそれほど難しいことではない。

 では、尖閣を抱える沖縄県政は、どれほど自らの立ち位置の特異性を認識できているだろうか。沖縄県の玉城デニー知事は、日本国際貿易促進協会の訪中団の一員として4月に訪中した際、会談した胡副首相に対し「中国政府の提唱する広域経済圏構想『一帯一路』に関する日本の出入り口として沖縄を活用してほしい」と直訴。それに対し、胡副首相は「沖縄を活用することに賛同する」と述べたと報じられた。

 意図してか知らずか、国の関係を飛び越えたこの発言が日本政府との間に緊張を生むことは容易に想定できる。批判を受け、すぐさま「日本政府が(一帯一路に)協力する場合に、政府の理解の下、県の国際物流拠点としての貿易促進を前提に提案した」と、県単独での参加を否定する弁明に追われた。米中や中台の政治状況を鑑みれば当然だが、裏を返せば、知事のこの発言は、沖縄が単なる「1/47」ではないと自覚しているかのような、無意識の意識が表面化したようにも見える。

 2012年に東京で開かれた国際交流会議「アジアの未来」で講演したシンガポールの元首相リー・クアンユー氏は、僕が投げかけた沖縄の現状と将来に関する質問にこう答えた。「Okinawa is not only a part of Japan, but also special partner of Japan」。沖縄の歴史や現状に対する深い洞察と含蓄満ちた返しにこれが政治家、憧れのリー閣下なのだと感動で興奮した。

実際の能力や資格論はおいて、沖縄は地政学的にも歴史的にも、アイデンティティは沖縄であり琉球である。国籍は議論の余地なく当たり前に日本である。自らを日本人として紹介するか、歴史を鑑み沖縄人として表するかはその時々のシュチエーションに拠るのも、共感求める国際人としては当たり前の姿勢である。我が国の最大の同盟先、多民族国家、米国においては当たり前過ぎてそのルーツと国籍の区別は、その善し悪しも、是非も議論にすらならない。

 その意味においては、リー・クアンユー氏が認めたように、特異性を誰よりも認識すべき県知事の立場としては、一帯一路をめぐる玉城知事の発言はあまりに思慮に欠ける。沖縄人としての私的発言が許されるのは一度だけだろう。6月にあった玉城知事のロシア訪問にも同様の懸念がつきまとう。沖縄は無邪気ではいられない。自覚する以上に周囲は外交に絡むその一挙手一投足を注視していることを忘れてはならない。

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想定上回る対抗策

 どれだけ警戒しても、世界は中国化の波を止めることはできない。最後のフロンティアとなるアフリカなどでは、ややもすれば言語や行動様式の根底まで中国の思想やモノの浸透避けられない。かつて日本が台湾を統治した時よりももっと時代に合った方法で、巧みに同化をはかっていくに違いない。欧州においても、第二次大戦後、EUの統合推進でリーダーシップを発揮し安定した経済発展を遂げてきたドイツでさえ、貿易で中国への依存度が増すにつれ”中国化”の侵攻は加速している。EU離脱のイギリスでも中国マネーの浸水は否めない。

 どうしようもなく、避けられない現実だからこそ、最後の砦である”通信と決済”の覇権獲得を狙う動きに国際社会は無関心ではいられない。世界市場の主流にもなり得るファーウェイの5Gとどう向き合い、スコアリングに連動するQRコード決済をどう監督、監視するかに様々な思惑が働くのもやむを得ない。その意味でFacebookの「リブラ」によって、ドル覇権を脅かされかねない米国の強い反発も理解できる。


我々はいかに中国を侮り、みくびって来たか。中国は、米国やそれに同調する国々の防衛措置に対し、早々と対抗策に打って出ている。ファーウェイなど中国の大手企業が、海外のソフトウエアやハードウエアに頼らない代替策に取り組んでおり、アリババもこれに加わる、とのニュース( アリババが独自開発のチップを公開、中国で海外に頼らない動き加速 https://newspicks.com/news/4088343 )が飛び込んできた。常に想定より速いスピードと質量で仕掛け、そして追い抜いていく。

沖縄や日本、海外の”いいもの”がそろうデパートRYUBOの「樂園百貨店」

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原点回帰

 日本はどう対応していくのか。一年を切った東京オリンピックに向けたカウントダウンが中国化へのカウントダウンとならないために、改めて足元を問い直す必要がある。日本型経営の成功の代表格であるトヨタは表層的な問題点から原因を掘り下げる「5WHY」の徹底で真の課題を見つけ、品質や安全性、丈夫さで世界が認める価値を創りだしてきた。その首尾一貫した5WHYにより、昨今はその日本型経営の制度疲労すらも、自ら指摘し、新たな模索をはじめている。その首尾一貫が創出するクオリティこそが、我が国が誇る”積極的な守りの経営”、その神髄である。

 真贋見分けるMade in Japanの原点回帰によって内需を掘り起こし、高付加価値を追求することが日本経済の再興につながり、働き方の見直しや生産性を高めることにつながる。その中でも、マンガやアニメ、ゲームなどのソフトコンテンツは、ハリウッドに負けず、劣らずの日本の言語や文化を伝える強力なプロパガンダ(武器)になり得る。この流れをリビルトできれば、沖縄の立地は日本各地の高品質、高付加価値なモノやコンテンツの集積地、常設の見本市機能として活用される。さらには独自の歴史や文化がその波及、浸透の潤滑油となって、「一帯一路」の起点にある義鳥を経由し世界にその販路を広げる青写真を描く導きにもなるだろう。

 もちろん交流促進の拠点となる沖縄のPORT政策には、一定規模が担保されることが条件となる。その為には、返還が見込まれる米軍基地機能を有する自治体、とりわけ那覇、浦添、宜野湾の統合による政令指定都市への昇格は検討すべき政治的テーマとなってくる。それも万国津梁への大いなる道であり、壁でもある。

 政府は沖縄のアジア性を活用してこそ国益に添い、いずれ歴史の評価に耐え得る政(まつりごと)を司ったとの栄誉にあずかれるのではないだろうか。

 単なる47分の1ではない、アジアの中の沖縄。我が国の人口の推移からも稼ぐ、稼げる自立ある地方は待ったなしの喫緊の課題である。しかし地方分権も地域主権もとりわけ2012年の現政権誕生以降は言葉狩りにでもあったかのようにその存在感を失っている。沖縄においては、自立ある地方、国益の観点からも「一国二制度」を想定に入れた議論が持たれる。

 令和元年に101回大会を迎える夏の甲子園。戦後74年、今年も8月15日の終戦記念日の12時に試合を中断して黙祷捧げる甲子園球児と共に持続的成長と”中国化する”の意味を平和の視点で考えたい。

(株)Polestar Okinawa Gateway 顧問 平良 尚也
(株)Polestar Okinawa Gateway 顧問 平良 尚也